火
10
5月
2011
「移動する子どもたち」は21世紀の主役(早稲田大学 川上郁雄)
『「移動する子どもたち」のことばの教育学』(くろしお出版)を紹介します。
「移動する子ども」とは
「国際移民の時代」と言われる現代、人々は仕事や夢や新しい生活を求めて国境を渡り、移動を繰り返しています。大人たちは自らの目的があって移動しますが、その移動する大人たちのもとで、移動せざるをえない子どもたちも多数生まれているのです。現在、日本に住みながら、家では親の話す中国語、韓国語、ベトナム語やポルトガル語などを話し、学校では日本語を使う子どもが何万人もいます。また、海外に渡った日本人家族で、家では日本語を話し、学校ではその国の公用語を使う子どもも多数います。これらの、幼少期より複数言語を使用する環境で成長する子どもたちを、私は「移動する子ども」と呼んでいます。では、そのような「移動する子どもたち」のことばの教育はどうなっているのでしょうか。
「ことばの力」とは
日本語を初めて学ぶ子どもがいるとします。その子どもに日本語を教えようとするとき、指導者は挨拶のことばから始まり、ひらがなやカタカナ、そして漢字など、文字を教えてあげようと考える傾向がありますが、子どもたちにとって必要なのは、ことばを使い、人とやりとりする体験です。ことばを使い、人とやりとりすることによって人との関係を築く力が、「ことばの力」です。本書は、「移動する子どもたち」が日本語を学ぶとき、子どもたちがどのようにことばを学び、ことばの力を獲得するのか、またそのことを私たちはどのようにサポートするのかについて、さまざまな角度から検討しています。
「移動する子ども」の問題から見えるもの
「移動する子ども」の問題は、決して子どもだけの問題ではありません。幼少期より複数言語環境で成長し、大人になった人は、現在では社会の中に多数います。私が勤務する大学の留学生の中にも、海外で成長し、日本語よりも現地語の方がよく使用できる日系の学生が含まれています。また、日本で活躍する有名人の中にも、「移動する子ども」だった人がたくさんいます。私は、幼少期より複数言語環境で成長した大人が、自分のことばやアイデンティティについてどのように考えているのかを知りたいと思い、インタビューをしたことがあります。それをまとめたものが『私も「移動する子ども」だった ―異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー―』(くろしお出版)です。この本からは、幼少期より「ことばの教育」がいかに大切かがわかりますし、「移動する子ども」として成長した経験は大人になっても一人ひとりの生き方に影響を与えていることがわかります。
学校の先生方、保護者、ボランティアの方々へ
「移動する子どもたち」は、日本語を学ぶ子どもたちだけではありません。実は世界各地には、同じような条件で日々、複数の言語の間を移動しながら生活している子どもたちが数えきれないほどいます。その子どもたちへの「ことばの教育」は、放課後に行う補習授業ではありません。むしろ、「移動する子どもたち」は、これからの21世紀の社会では多数派になることは必至で、その意味では社会の主役なのです。その子どもたちの「ことばの教育」は、まさに子どもたちのアイデンティティ形成と、私たちの社会をどう構築するかというグローバル・イシューであり、学校、家庭を含む、社会全体で考えていかなければならない課題なのです。
くろしお出版による教育情報サイト
