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3月

2011

多読のすすめ(NPO法人日本語多読研究会 粟野真紀子)

教師が文法や語彙を解説しながら、クラスで一つの文章を少しずつ読み進める。 

 

こんな「精読」の授業で読解力はどれほど伸びるのだろう? 私たちは長年日本語を教えるうちに疑問を抱くようになりました。教師も学生も伸びている実感が得られず、何より学生の顔がちっとも楽しそうじゃない。日本語能力試験1級には合格しても、本を楽しめるようになる人はごくわずか・・・。

 

これは、英語教育での体験にも、ぴったりあてはまります。学生時代、辞書を引きまくり、真っ黒になるほど書き込みをして英文を「解釈」したのに、私たちは本1冊読む楽しみを味わったことがないのです。

 

そんなとき、「英語教育では多読が成果を上げつつある」と聞きました。「やさしい読みものからどんどん大量に読んだらペーパーバックが読めるようになった」というのです。

 

「こんなことが日本語教育でもできたら!」と思い立った私たちは、まず読みもの作りから始めました。何しろ、レベルと文法をコントロールしたやさしい読みものなんて日本語教育にはなかったのですから! それで、誕生したのが、『レベル別日本語多読ライブラリー にほんご よむよむ文庫』シリーズ(アスク出版)す。

 

ここからようやく本格的な多読授業が始まりました。英語多読のやり方にならって始めた日本語学校での多読授業はこんな具合です。

 

まず、教室の真ん中に、レベル別読みものや絵本、児童書、マンガ、エッセイなどをどっさり置きます。それを学習者が一人1冊ずつ手にとり、自分のペースで読んでいくのです。やがて教室は水を打ったように静まり返り、濃い時間が流れます。時折、思わず笑い声を上げたり、中には涙ぐんだりする学生も。

 

こうして、週12時間を半年から1年ほど続けた学習者は、徐々に日本人向けの小説や新書へと「離陸」し始めます。実に自然に!

 

授業の最後のアンケートには、毎年次のような言葉が並びます。

 

「日本語の本が読めてうれしかった」

「知らない言葉を飛ばしてもいいと聞いて、本当に大丈夫なのかと 思ったけれど、知らないうちにどんどん本を読むことに夢中になった」

「日本語を読む恐さを克服した」

「好きな作家ができた」

「本屋へ行くようになった」・・・

 

読みながら、こちらも充実感で胸がいっぱいになります。

 

しかし、一見、自由に本を読んでいるだけの多読授業のどこにこんな力があるのでしょう? 結論から言えば、以下に挙げるように、これまでの読解授業と全く逆のことをしたから、としか言いようがないのです。

 

一人一人別々の本を読むこと 

これがまず、第一の逆転の発想です。読むことも能動的なコミュニケーション手段なのですから、お仕着せのものを大勢でゆっくり読んでも面白いはずがありません。読みたいものを一人で読むことが読む行為の基本だと、遅ればせながら学びました。

 

多読の4つのルール

読み方も精読とは正反対。①やさしいものから、②辞書を引かずに、③わからないところは飛ばして、④進まなくなったら止める。100パーセント理解しながらでは、途中で挫折するのが関の山です。わからない言葉を飛ばしても、本は読める。私たちは、母語ではそうしているのに、なぜこのことを無視し続けて来たのでしょう。

 

教師が「教えない、テストしない」

教師は質問されてもすぐには答えないで、相手や本の内容に応じて「絵をよく見て」「とりあえずわからないまま進んで」とアドバイスするだけです。テストもしません。「テストをしなければ、理解しているかどうかわからないのでは?」とよく言われますが、楽しんで読み続けている学習者にテストは必要でしょうか。楽しんでいる様子で「読めている」ことにしてはどうでしょう。学習者が少しずつ自力で読む力をつけていくのを長い目で見守り、支援していくのが多読での教師の役割です。

 

いかがでしょう?あくまでも学習者を主体にしたこんな授業、非現実的だと思われますか?

 

いまや日本語学習者はかつてないほど多様化し、国内の外国人定住者やその子弟の日本語教育の問題も深刻化しています。ひらがな、カタカナ、漢字と、とりわけ表記の複雑な日本語を‘攻略’するのに、今こそこんな多読の「逆転の発想」が必要なのではないでしょうか。ぜひ、一度、学習者に自由に読む時間を与えてみてください。その目の輝きに学ぶことは大きいと確信しています。

 

最後にもう一点。手前味噌ながら、こんな多読が可能になったのは、辞書なしでもすらすら読めるレベル別読み物があったからこそだと自負しています。しかし、それでも多読するにはまだまだ数が足りません。多読に可能性があると思われた方、ぜひ一緒に作りませんか。いつの日か、世界中の日本語学習支援者によって、読み物がどんどん作られ、より豊かな多読の環境が整うことを、私たちは日夜夢見ています。

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コメント: 4

  • #1

    サンドーム田畑光恵 (月曜日, 18 4月 2011 19:12)

    10年間ニュージーランドで日本語学習者に読解を教えています。時間などの関係で多読を実践できません。私自身、大学生の時、英語の本を読めるようになりたい、その思いで、一人で多読に挑戦しました。そして、辞書なしで、新聞や小説が読めるようになりました。今、多読の研究をしていますが、「日本語でも楽しんで本を読めるようになるんだ」という事を教え子達に経験させてやりたいと心から思います。海外の大学では、日本語教育専門ではない先生が日本語の語学コースなどを担当することも多く、読解についての理解は必ずしも深くはないのが現状です。まして、多読への理解も必ずしも正しくはありません。そんな現状を少しでも変えていけたらと頑張っています。日本で活動なさっている同士の皆さんを見習って。

  • #2

    粟野真紀子 (火曜日, 19 4月 2011 23:27)

    サンドーム田畑光恵さま

    書き込み、ありがとうございました。
    私たちと同じ思いで、がんばっていらっしゃることを知り、感激いたしました。
    日本語に触れる機会の少ない海外でこそ、学習者には多読をしてほしいし、効果があるのではないかと思います。
    私たちも、これからももっと質の高い読みものを目指しますので、田畑さんもぜひ、学習者に多読を勧めてみてください!

  • #3

    しょう (火曜日, 03 1月 2012 14:43)

    こんにちは。
    レベル別日本語多読ライブラリーという読み物は、世界中の日本語学習者のため、作られていて、ちょっと質問したいんですが、今の段階は、どこの国で、とのように使われていますか?

  • #4

    粟野真紀子 (木曜日, 05 1月 2012 20:54)

    しょうさん、ご質問ありがとうございました。
    私たちはレベル別日本語多読ライブラリーを書いているグループです。どこの国でどう使われているかまでは、わかっていません。
    わかる範囲でお答えすると、一番売れているのは日本国内、海外ではアメリカのようです。韓国、台湾、中国でもそれぞれの国の出版社から韓国版、台湾版、中国版が出版されています。
    使われ方ですが、海外は個人的に買って読んでいる人が多いのではないかと思います。日本国内は大学や日本語学校でも買われているだろうと推測します。でも、国内でも海外でも授業の中でこの本を使って多読をさせている学校はまだまだ少ないのではないでしょうか。
    しょうさんは、どのような興味から、質問をされたのですか?

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